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日本国有鉄道 労働運動史

鉄道ジャーナリストこと、blackcatの国鉄労働運動史

国鉄労働組合史詳細解説 46

 

みなさま、こんばんは、長らく放置してしまって申し訳ありません。この辺りまで来ると複数の要素との組み合わせが出てきますので、併せて国鉄があった時代blogも併せてお読みいただければ幸いです。

国鉄財政再建が本格化した昭和55年

blog.goo.ne.jp
当時の国会議事録を参照しながら、簡単な解説を加えさせていただいております。

さて、国労が、「赤字ローカル線の切り捨てと国鉄労働者7万4000人削減(35万人体制)を柱とした国鉄経営再建特別措置法案」とはどのような法案だったのでしょうか。

簡単にまとめると

  • 人員整理を行い、昭和60年度までに35万人体制にします。(当時の国鉄職員は40万人)
  • 地方ローカル線は基本廃止します。ただし、地方が残したいということであれば地方に譲渡します、その仕組みも作ります。
  • ローカル線建設も基本ストップします、ただし、必要な路線は別途建設します。
  • 全国一律ではなく地方の実情に応じた運賃にします
    と言ったところでしょうか。

深刻な慢性的赤字と国鉄再建

まず最初に、国鉄の経営再建の目標と言うことが掲げられました。

スト権スト以降、大幅な運賃値上げなどもあって、国民の国鉄離れは深刻化し、運賃値上げしても想定以上に国鉄の利用者が減り、通勤・通学輸送では並行する私鉄に奪われたり、中長距離では飛行機料金との差額が小さくなったことから飛行機利用が一般化し東京⇔札幌や、東京⇔博多といった長距離路線では鉄道は歯が立たなくなり、特に東京⇔博多などでは新幹線と言う選択肢があるとしても片道7時間はやはり昼行列車の利用時間としては限界であり、飛行機の利用が好まれる結果となっていました。
そうしたわけで、国鉄の本来得意とする中距離旅客輸送も飛行機と高速バスに浸食され、貨物輸送に至っても車扱いの単一貨物輸送などもトラックへの切り替えなどで減少傾向となっており、唯一気を吐くフレートライナーに代表されるコンテナ輸送だけという現象になっていました。

そんな中、国鉄財政再建計画として「国鉄経営再建特別措置法案」が提出されたのでした。
特に目玉と言える政策を持っていなかった鈴木首相にしてみれば、財政再建は自身にとっても丁度良い政治的材料と言えました。

当初は、民営化ありきでは無かった国鉄改革

そこで、法案を参照しますと、

 「昭和六十年度までにその経営の健全性を確保するための基盤を確立し、引き続き、速やかにその事業の収支の均衡の回復を図ることに置くものとする。」と言う方向性は示されていますが、国鉄を民営化するつもりは全くありませんでした。

それは、第3条2項、「国は、日本国有鉄道に我が国の交通体系における基幹的交通機関としての機能を維持させるため、地域における効率的な輸送の確保に配慮しつつ、日本国有鉄道の経営の再建を促進するための措置を講ずる」と書かれているところからも見る事が出来ます。

(経営の再建の目標)

第二条 日本国有鉄道の経営の再建の目標は、この法律に定めるその経営の再建を促進するための措置により、昭和六十年度までにその経営の健全性を確保するための基盤を確立し、引き続き、速やかにその事業の収支の均衡の回復を図ることに置くものとする。

 (責務)

第三条 日本国有鉄道は、その経営の再建が国民生活及び国民経済にとつて緊急の課題であることを深く認識し、その組織の全力を挙げて速やかにその経営の再建の目標を達成しなければならない。

2 国は、日本国有鉄道に我が国の交通体系における基幹的交通機関としての機能を維持させるため、地域における効率的な輸送の確保に配慮しつつ、日本国有鉄道の経営の再建を促進するための措置を講ずるものとする。

 さらに、具体的な経営改善計画として、下記のように職員数の削減などについても言及しています。

「二 事業量、職員数その他の経営規模に関する事項」とあるように、職員数削減を求められているわけで、昭和60年度末までに35万人体制(実際の民営化前にはさらに絞り込まれた任数になったことはご存じのとおりです。)

(経営改善計画)

第四条 日本国有鉄道は、運輸省令で定めるところにより、その経営の改善に関する計画(以下「経営改善計画」という。)を定め、これを実施しなければならない。

2 経営改善計画は、次の事項について定めるものとする。

 一 経営の改善に関する基本方針

 二 事業量、職員数その他の経営規模に関する事項

 三 輸送需要に適合した輸送力の確保その他の輸送の近代化に関する事項

 四 業務の省力化その他の事業運営の能率化に関する事項

 五 運賃及び料金の適正化その他の収入の確保に関する事項

 六 組織運営の効率化その他の経営管理の適正化に関する事項

 七 収支の改善の目標

 八 前各号に掲げるもののほか、運輸省令で定める事項

3 日本国有鉄道は、毎事業年度、経営改善計画の実施状況について検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない。

4 日本国有鉄道は、経営改善計画を定め、又はこれを変更するに当たつては、輸送の安全の確保及び環境の保全に十分配慮しなければならない。

5 日本国有鉄道は、経営改善計画を定め、又はこれを変更しようとするときは、運輸大臣の承認を受けなければならない。

国鉄ローカル線に有っては原則バス化もしくは地方切り捨て政策

さらに、国労の資料でも「赤字ローカル線の切り捨て」と言う風に書かれていますが、国鉄ローカル線については基本的に国鉄の経営から切り離す。

ただし、特定の条件(並行道路の未整備など)に該当する場合は除外しますと言う方向性が打ち出されました。

地方に多くある第3セクターの私鉄はその殆どが国鉄のローカル線を転換したものであると言えましょう。

いすみ鉄道若桜鉄道も第1次地方交通線として廃止転換されたものです。

www.isumirail.co.jp

http://www.infosakyu.ne.jp/wakatetu/

両鉄道とも色々なアイデアを出して頑張っておられますが、どうしても沿線人口の減少などもあり楽観は許されないと思われます。

ちょっと話題がずれてしまいましたので、本題に戻したいと思います。

特に、第8条で「幹線鉄道網を形成する営業線として政令で定める基準」と言うことに対して判断基準があいまいになるのではないのかと言った質問が何度もされています。

地方交通線の選定等)

第八条 日本国有鉄道は、鉄道の営業線(幹線鉄道網を形成する営業線として政令で定める基準に該当するものを除く。)のうち、その運営の改善のための適切な措置を講じたとしてもなお収支の均衡を確保することが困難であるものとして政令で定める基準に該当する営業線を選定し、運輸大臣の承認を受けなければならない。

2 日本国有鉄道は、前項の承認を受けた鉄道の営業線(以下「地方交通線」という。)のうち、その鉄道による輸送に代えて一般乗合旅客自動車運送事業(道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第三条第二項第一号の一般乗合旅客自動車運送事業をいう。以下同じ。)による輸送を行うことが適当であるものとして政令で定める基準に該当する営業線を選定し、運輸大臣の承認を受けなければならない。

3 日本国有鉄道は、前項の政令で定める基準に該当する営業線を選定したときは、その旨を関係都道府県知事に通知しなければならない。

4 前項の通知を受けた都道府県知事は、当該通知に係る営業線の選定について、運輸大臣に対し、意見を申し出ることができる。

5 日本国有鉄道は、第一項又は第二項の承認を受けたときは、遅滞なく、当該承認に係る地方交通線について運輸省令で定める事項を公告しなければならない。

6 日本国有鉄道は、運輸省令で定めるところにより、経営改善計画において、第二項の承認を受けた地方交通線(以下「特定地方交通線」という。)ごとに、その廃止の予定時期及び次条第一項に規定する協議を行うための会議の開始を

 

希望する日(以下「会議開始希望日」という。)を定めなければならない。

 最後に、国労が語っていますが、現在も問題として話題に上る、赤字国債(それまでも国債は発行されていましたが、それは予算の範囲内での発行であり財源不足を補うための国債発行は本来は非常措置として厳しく戒められていました。その後は、「1974年度以降、赤字国債発行が普通のこととなってしまい、1980年度 末には国債発行残高が国家財政の2年分を上回る70兆円を超え、83年度末には100兆円を超えることが予想されるようになっていた。」という国労の解説に繋がるわけです。

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紀勢本線を行く春日塗の113系

************************************以下は、国労本文になります。*******************************

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第1章、臨時=行革路線と国鉄労働組合

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 第1節 80年代初頭の情勢と国鉄労働組合
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├○ 臨調”行革路線と国鉄「分割・民営化」 │
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 赤字ローカル線の切り捨てと国鉄労働者7万4000人削減(35万人体制)を柱とした国鉄経営再建特別措置法案は、1980年2月に国会に提出された が、この年5月、社会党提出の大平内閣不信任案が可決されて衆議院は解散となりいったんは廃案となった。しかし、6月22日の衆参同日選挙の結果は、自民 党が圧勝し、選挙中に急死した大平首相を継いだ鈴木内閣は、財政再建のための行財政改革を最重要課題とするとともに、「国鉄経営再建特別措置法案」を再提 出した。
 もともと政府は、1973年秋の石油ショック後の長期不況(スタグフレーション)のもとで74年度以降、赤字国債発行が普通のこととなり、1980年度 末には国債発行残高が国家財政の2年分を上回る70兆円を超え、83年度末には100兆円を超えることが予想されるようになっていた。一方に、やはり財政 赤字に悩むアメリカから極東における日本の防衛負担の拡大(防衛費の増大)を押しつけられながら、国内では財界から「増税なき財政改革」を迫られ、 1970年代後半の歴代自民党政府はいずれも「行財政改革」を掲げていた。