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日本国有鉄道 労働運動史

鉄道ジャーナリストこと、blackcatの国鉄労働運動史

国鉄労働組合史詳細解説 71

臨調答申と国労

 昭和57年7月30日、国労は第44回定期全国大会(東京日比谷公会堂)を開催しており、国鉄の「分割・民営化」を盛り込んだ第二臨調第三次答申(基本答申)が出された日でもありました、基本答申は、下記の11項目からなっていました。

  1. 職場規律の確立を図るため、労働実態のともなわない手当、ヤミ専従、管理職の下位職代務等)は全面的に是正し、現場協議制度自体も改める。
  2. 新規採用を原則として停止する。配置転換を促進し、各現場の要員数を徹底的に合理化する。
  3. 設備投資は、原則として停止。整備新幹線計面は、当面見合わせる。
  4. 貨物営業は、拠点間直行輸送を中心とし、業務のあり方を抜本的に再検討する。
  5. 地方交通線の整理を促進する。また、上記以外の特定地方交通線を含む地方交通線についても、私鉄への譲渡、第3セクター化、民営化等を積極的に行う。
  6. 分割会社との間係を配慮しつつ、自動車、工場および病院の分割等を推進する。
  7. 永年勤続乗車証、精勤乗車証および家族割引乗車証を廃止する。他の交通機関との間に行われている相互無料乗車の慣行を是正する。
  8. 期末手当、業務手当等の抑制について検討する。
  9. 国鉄運賃については、安易な運賃改定は行わない。なお、通学定期割引等の運賃の公共負担については、国として所要の措置を講ずる。
  10. 兼職議員については、今後、認めない。
  11. 資産処分の一層の促進を図る、関連事業についても積極的な増収に努める。

詳細は、

幣ページ 国鉄があった時代  昭和57年7月「新形態移行までの間緊急にとるべき措置」をご参照ください。

といった、大胆な提言であり、「現場協議制度」や「兼職議員」については、国労が労働運動の権利として得た部分が大きかったため、こうした部分にまでメスが入ったことに対して大きく反発することになりました。

現場協議制とは?

その辺を国労の資料から参照しますと、下記のように断固反対すると発言しています。

国労の全国大会の討議の中でも、臨調路線との対決姿勢が強調され、本部答弁でも、書記長は「大会の総意は臨調答申の国鉄分割・民営と緊急11項目の攻撃に断固反対し、総反撃に立ち上がる体制固めを確認した。と集約答弁を行った。

国鉄当局の中でも、政府の分割方針に反対する勢力もありましたが、国鉄当局全体の流れは、政府の答申に沿ったものとなり、実際に現場協議制について改革が進められることとなりました。

現場協議制の歴史を簡単に振り返ってみますと、

現場協議制度は、昭和42年12月19日 公労委による。
「現場における団体交渉及び労働協約締結に関する紛争仲裁委員会の勧告」に基づいて生まれた制度でとして遡ることが出来ます。
元々、現場での細かい点は本社組合間で行われてきたが、それを現場レベルでも行えるようにとのことで、国労並びに新国労(後の鉄労)から仲裁(国労)並びに調停(鉄労)から出されていたことが、この勧告案を出した背景にあります。
昭和43年4月に『現場協議に関する協約』を国労と締結、鉄労(当時は新国労)とは、別個の調停案に基づき、昭和43年5月に「職場委員会の設置に関する協約」を締結、さらに動労とは昭和45年3月「現場協議に関する協約」を締結したとあります。

現場協議制は、現場は輪送叢務の第一線であり,現場での紛争を迅速かつ実情に即した形で解決をはかることを目的として設けられたものでしたが、10年を経た昭和50年頃には制度自体が形骸化してしまい、実態に合わない事態となっていました。
結果的にヤミ慣行を増長させる結果などになっていました。

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 昭和40年代から指摘されていた悪慣行

その結果、団体交渉が本来業務のようになってしまって本来の業務が出来なかったり、誹謗中傷のための場になってしまったり、現場長の権限外事項が協議される等の状況が発生してしまったという報告がなされていました。

こうした事態は、40年代後半以降において「職鳩闘争の場として悪用されている。」、「反抗的,非協力的な態度が目立つ。」、「多数の説明員,傍聴者が入り,正常な協議ができない。」と言った問題が指摘されていましたが、それに対する改善が出来ていないという状況が続いていました。

現場協議制の見直し当局が宣言

  臨調基本答申では、「現場協議制度は本来の趣旨にのっとった制度にあらためる」と提言しており、これに基づき、当局は昭和57(1982)年7月19日、国労動労など関係組合に協約改訂を申し入れしました。実質的には、現行の現場協議制を廃止するモノであり、改定案は下記の通りでした。

  • 従来の現場協議を改め、現場協議委員会を設置する
  • 制度の目的を、(1)業務の正常なる運営、(2)正常で平和的な労使関係の維持、(3)国鉄業務の公共性、特殊性に鑑み、現業機関における労働条件に関して生じた団体的紛争の迅速かつ実情に即した処理
  • 「協議」は「審議」に変わり、対象事項や回数を限定する

ということで、従来の現場協議制とは大きくその性格を異ならせるものであり、上記の11項目の提言と相まって、国労としては当然のことながら容認できないものでした。

また、当局は昭和58(1983)年11月30日をもって期間満了となる従来の「現場協議に関する協約」を再締結する考えがないことを表明したわけで、実質的に「現場協議制」の終わりを告げていました。

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改定案現場協議 国鉄線 昭和57年11月号から引用

 

現場協議制改定を受入れた鉄労・動労と拒否した国労

国労は、積極的に当局と団体交渉を重ねるとともに公労委の調停にも持ちこみましたが、当局はその方針は変更せず、国労は昭和58(1983)年12月1日以降無協約状態となりました(全動労も同様)。一方、動労、鉄労、全施労は同年11月30日に当局の改定案を大筋で受入れて解決。

この頃から、元総評として同じ道を歩んでいた国労動労が少しづつその距離を開けていくこととなったことが伺えます。

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国労は国民の国鉄を目指すとして当局に反発

 

国労は、政府が国鉄改革のためと称して、緊急11項目を国鉄労働者と勤労国民に押しつけることを明らかにしたと反発して、当局に対して対決姿勢を強めることとなりました。

内容は、下記の「闘争宣言」のところを参照ください。

 

**********************以下は、国労の資料になります。****************************

 

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第1章、臨時=行革路線と国鉄労働組合

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 第2節 80年代前半の国労つぶし包囲網との闘い
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二 臨調基本答申に対する国労の対応とその後の闘い

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├○ 二 臨調基本答申に対する国労の対応とその後の闘い│
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 臨調基本答申に対する国労の対応

 国鉄の「分割・民営化」を盛り込んだ第二臨調第三次答申(基本答申)が出された7月30日は、国鉄第44回定期全国大会(東京日比谷公会堂)開催さなかのことであった。この臨調答申の内容とその狙いが大会討議のなかでも柱のひとつとなり、臨調路線との対決姿勢が強調された。本部答弁でも、書記長は「大会の総意は臨調答申の国鉄分割・民営と緊急11項目の攻撃に断固反対し、総反撃に立ち上がる体制固めを確認した。と集約答弁を行った。
 そして大会最終日には「大会宣言」の他に、骨子次のような「闘争宣言」を採択した。

 「この数月月間、自民党、政府・国鉄当局とこれに加担するマスコミ等が一体となって国鉄労働者と国鉄労働組合に悪罵の限りをつくし、集中砲火を浴びせてきた。これは国鉄労働組合の団結力・闘争力を崩壊させ、国民と分断し、国労の体質改善をも狙い、日本の労働組合運動と確信の運動に重大な打撃を与えようとしているものとみざるを得ない。
 7月30日、第2臨調は基本答申を発表した。その中で"国鉄改革”の方策として5年以内(昭和62年度)を目標として『分割・民営』化をすすめること、その間、緊急11項目を国鉄労働者と勤労国民に押しつけることを明らかにした。また、ローカル線廃止、運賃値上げ、7分割を強行することを明らかにした。国鉄労働者に対しては、団体交渉を否認し、雇用条件であり労働条件である乗車証の廃止をはじめ、新規採用のストップ、職員兼職の廃止、貨物の大幅な削減と『合理化』など、国鉄労働者が獲得してきた諸権利や制度を一方的に改悪しようとしている。
 まさに、われわれはこれまでの歴史の中で経験したことのない重大な局面にたたされている。
 国鉄当局は自民党と政府に従属し、完全に当事者能力を喪失した。『国民の国鉄』としての経営責任を放棄し、国鉄労働者と国鉄労働組合を無視し国鉄破壊の政策をあくまでも強行するならば、列車の正常な運行はもとより安全運転にも重大な影響が生じることを警告する。その責任はあげて政府・自民党国鉄当局にある、
 国鉄の破壊攻撃をはねかえし、『国民の国鉄』としての民主的再建を目指し、『合理化』反対闘争と『国民の交通・国民の国鉄をめざす民主化・政策要求』闘争を結合して闘うとともに、臨調行革に反対するすべての民主勢力の統一行動を成功させるために、先頭にたって闘う決意をかため合おう。」

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