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日本国有鉄道 労働運動史

鉄道ジャーナリストこと、blackcatの国鉄労働運動史

国鉄労働組合史詳細解説 87

今回は少し視点を変えて

今回は、労働組合視点ではなく国鉄当局視点で、国鉄改革をどのように受け止めていたのか見ていきたいと思います。

国鉄改革に関しては、急進派もいれば慎重派【守旧派】もいたわけで、国鉄の中でもその辺りは微妙な温度差はあったと思われます。

国鉄と言う組織が政治の介入を受けやすく、かつ民業圧迫の名の下関連事業などを制限された状況の中で、道路整備は特別会計による国策で整備され、国有鉄道国鉄自らの資金調達で行わねばならないという矛盾についても国鉄が実質破綻する昭和45年頃までは何も特段の措置を政府は講じることはありませんでした。

その後の再建計画も言わば、数字あわせの再建計画のための再建計画であり、国鉄当局も政府も誰もが責任を負わない体制になっていました。

結果的に、積み上がった借金をどうするのか。

その借金の背景には、新幹線のように本来であれば国策として国がその資金を措置すべき物もあったかと思いますし、8割以上割引の学生通学定期など本来であれば文部省【当時の組織名】が本来であれば補助金と言う形で助成すべき物や、昭和30年代に中央政府が地方交付金が不足したことに対してその穴埋めをする形で始めた地方納付金制度【公社の建築物に対して固定資産税相当額を納付する制度】を活用して、国鉄から資金を吸い上げたりしました。

ですから、国鉄当局としても答申で、「国鉄は破産状況にあり、改革には一刻の猶予も許されない」という言葉は内心忸怩たる物があったのではないかと思われるのです。

今回は、国鉄の部内誌、国有鉄道昭和57年(1982)9月号の記事から引用させていただきました。

少し長いですが、引用させていただきます。

国有鉄道 昭和57年9月号

 

竹内常務理事に聞く
国鉄に対する国民の評価が決め手

-----早速ですが、7月初日に臨時行政調査会の基本答申が政府に提出され、これについて
8月7日の「つぱめ」で、総裁が、真しなお気持を国鉄職員全体に対して訴えておられます。
重複する面もあるかと思いますが、極めて事柄が重大でありますので、竹内常務からも、この基本答申についてのお話をお伺いしたい次第です。

竹内
今回の基本答申も5月17日の臨調第4部会の中間報告と内容としてはほとんど変わっておりません。国鉄にとってたいへん厳しいものになっております。そういうふうに厳しくなった背景をまず私どもとしては,よくわきまえてかからなければならない。要するに,答申はひとにぎりの委員の独断,偏見と考えると大きなまちがいで,国民の多くの方から支持をうけて出されたものであるということです。大筋は中間報告と変わりなし経営形態の変更が国鉄再建のためどうしても必要だとしています。いってみれば公社制度そのものについての不信感が基本にあるわけでして,要はそれが中途半端な制度であり,当事者能力がないために経営姿勢や労使関係がよろしくない。
その上に,現在国鉄が進めている経営改善計画も手ぬるいということで,さらにこれを深度化し,その上緊急に処置すべき11項目というものをかかげて,直ちに改善しなければならないといっておられるわけです。しかし,そうしたもろもろの問題の中でもとくに過去債務の問題,年金処理の問題,青函トンネルや本四架橋といった国家的大プロジェクトにかかわる経費負担をどう考えたらいいのかというような問題は,どうしても国鉄だけでは解決できない。
しかもこれらを解決しなげれば,再建計画はどうにも進めようがないというわけですから,これらの問題をとりあげられたことは私どもとして大変ありがたいことと考えている
わけです。後半部分は省略

国鉄問題は国民注視の問題であるとしながら、公社という形態以上に「青函トンネルや本四架橋といった国家的大プロジェクトにかかわる経費負担をどう考えたらいいのかというような問題」にまで踏み込んだことは大きいと一定の評価をしています。

実際、青函トンネルは工事が進められていたときは、その後の運営を誰がするのか?という点が大きく問題としてクローズアップされました。

実際、青函トンネルを作っても国鉄が維持していくことにたいして,年間800億円の赤字が発生するという試算が出されており、その維持費をどうするのかといった問題が大きくクローズアップされ,青函トンネルの活用方法が議論されることになりました。

実際に,昭和58年7月の鉄道ジャーナルでは、青函トンネルと北海道の鉄道ということで、青函トンネルをどのように活用するのかと言った点が議論されており、多目的利用の観点からカートレインを走らせて高速道路との融合などという案も提言されていました。

そうした意味で、国鉄だけで解決できないところまで踏み込んだことには一定の評価をしているように見受けられます。

さらに、「監理委員会の任務とか権限というものについて詳細に書かれ、これからの経営形態にかかわる問題とか、先程の過去債務などの問題、再建の基本となる諸問題を処理するということになっているわけです。」ということで、監理委員会がその方針としている、「分割・民営化にはかなりの期聞を要するわけで、その期間中に私ども、現在の経営改善計画を深度化し完遂し、緊急措置事項をキッチリと実行するととが必要なわけです。」

ということで、臨調が分割民営化を打ち出す前に国鉄が,緊急に措置すべき11項目を実行すれば、分割民営化という最悪の事態は避けられるのではないかと判断している節があります。

その辺を本文から引用してみたいと思います。

竹内
ところで、今回の基本答申の中でとくに前回と変わった点は、国鉄再建監理委員会ですネ。前回の中間報告のときはまだあまりハッキリとしてはいなかったのですが、今回は監理委員会の任務とか権限というものについて詳細に書かれ、これからの経営形態にかかわる問題とか、先程の過去債務などの問題、再建の基本となる諸問題を処理するということになっているわけです。
したがって、監理委員会がどういう審議をされ、どういう結論を出されるかということみに、私どもとしては重大な関心をよせざるをえません。どういう形をとるにしても、との委員会に私ども申しあげるべきことは十分申しあげ、国鉄再建についてのご判断にあやまりなきょう努力しなければならないと思っています。だからとそ、総裁もこの委員会に積極的に参加したいといっているのです。臨調の基本答申の分割・民営化にはかなりの期聞を要するわけで、その期間中に私ども、現在の経営改善計画を深度化し完遂し、緊急措置事項をキッチリと実行するととが必要なわけです。

そこで、聞き手は、組織防衛が諮れる可能性があるのでしょうかと聞いています。

これに対して、国鉄の問題は「過去債務の問題や年金の問題は、国民負担にもかかわる問題ということで、やはりその解決には国民の皆さんが国鉄に対してどういう評価をされるかが問題で、それが最後の決め手となる。」

楽観視はしておらず、国鉄自らが変わらないと、分割民営化の答申は避けられないのではないかと結んでいます。

そのためにも、地方議員の兼職禁止やOBを含めた無料乗車証の問題等、過去からのしがらみの部分を改善していく必要があるし、何といっても一番大切なことは毎日列車を正確に運転し、お客さまには誠意をもって接し、きめられたことはキチンとするという、日常業務遂行の態度ですネ。職員が多いから中には多少困ったものもいるとか、仕事がたてこんでくるとそういちいち丁重にも できないと か、そんなことはいいわけにも何もならないわげです。」として職員一人一人の職務を全うすることが国民の信頼を得ることになるのではないかとして言葉を結んでいます。

実際、この頃から国鉄では増収キャンペーンや、車掌などの自己紹介など以前の国鉄と比べれば大きく変わりつつあると印象深くさせることも多々ありました。

ただし、そうした多くの職員が頑張っている中で、機関士による飲酒運転による事故なども発生していました。

昭和57年の3月15日には名古屋駅で飲酒運転の機関士が名古屋駅で特急紀伊に激突事故を起こしていますし、更に2年後の昭和59(1984)年10月19日には、西明石駅で飲酒運転の機関士が工事に伴い電車線運行に変更になっていたことを失念して進入、客車がホームに激突する事故を起こすなどの言い訳が出来ない事故を起こしていました。

余談が長くなりましたが、再び引用させていただきます。

一一国鉄全員一丸となって努力すればいまわれたような方向で改善は可能なわけですネ

竹内
国鉄は永い間、国民の国鉄ということで、国民生活に大変深いかかわりあいをもってきているものですから、国民の皆さんも非常な関心をもって問題の推移を見守っておられると患います。
先程から申しあげている再建の基礎となる過去債務の問題や年金の問題は、国民負担にもかかわる問題ということで、やはりその解決には国民の皆さんが国鉄に対してどういう評価をされるかが問題で、それが最後の決め手となる。
したがって、国鉄としては、国鉄はよくやっているという評価をしていただけるような努力をしなければならない。そういう努力がなげれば、今度設置される国鉄再建監理委員会でもわれわれの望むような結論は到底出されないと思います。
いくつか不都合な点があっても、分割・民営化がいいというのが国民の大多数の意見になる可能性は現状では多分にあることを認識しておく必要があります。
そこで、当面の最大課題である緊急対策の問題ですネ。新規採用の停止、地方議員の兼職禁止、OBを含めた無料乗車証の問題等、どれーっとっても永い過去からのいきさつのあるものですから大変は大変なんですが、これはもう勇断をもって実行しなげればなりません。しかし、何といっても一番大切なことは毎日列車を正確に運転し、お客さまには誠意をもって接し、きめられたことはキチンとするという、日常業務遂行の態度ですネ。職員が多いから中には多少困ったものもいるとか、仕事がたてこんでくるとそういちいち丁重にも できないと か、そんなことはいいわけにも何もならないわげです。

結局、最終答申では国鉄の分割・民営化の方針は覆らず、国鉄としても分割民営化に向けて準備を始めることになるのですが、昭和57年当時はまだまだ、分割・民営化は避けられるのではないか、もしくはもう少し違った形に出来たのではないかという思いがあったように感じます。

 

 

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続く

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