今回は、国労の国鉄再建提言と言うことで、国労の資料では、国鉄研究会の国鉄再建「提言」が行われたと、書かれているのですが、実は国鉄労働組合40年史を参照したのですが、詳細が書かれていないため、補足しての説明が難しいのですが、個人的見解を中心に書かせていただこうと思います。
また、国労がこの国鉄研究会をいつ発足させたのか具体的な日程が出ていないのですが、恐らく国鉄当局の事前協議資料が出る前であったと思われます。
国労による国鉄再建提言
国労が「国鉄研究会」( 座長∴局梨昌信州大学教授) を書記長とする、研究会を設置した背景には、国鉄当局がヤード系輸送の廃止などを発表したことによる危機感によるものと考えられます。
実際には、昭和58年1月31日、各組合に対して国鉄は下記に示すように、ヤード系輸送の廃止を前提にした、貨物改善策を打ち出していきました。
その辺を、国鉄労働組合40年史から引用してみたいと思います。
83年1月31日、国鉄当局は国鉄における赤字の大きな要因となっている鉄道貨物営業に関して、「新しい鉄道貨物営業について」と題する貨物営業体制の具体的計画を事前協議資料として、
①輸送システムの転換に関してヤード集結方式から拠点駅間直行輸送体制に転換し、現行10ヤード、851駅体制を、拠点87駅を中核に457駅体制に縮小する。・・・中略・・・業務委託の推進、車両基地の統廃合、情報処理の近代化などによる業務運営の効率化をはかり、60年度(85年度)に収支を均衡を実現すると言った内容であった。
実際に、国鉄赤字の多くはローカル線と貨物輸送と呼ばれていますが、実際には下図の通り、国鉄の中でもヤード系輸送による赤字が大きく、コンテナを中心とする直行系輸送は実は黒字だったという事実があります。
引用元 国有鉄道 1983年3月号 新しい貨物営業から引用
ヤード系輸送は、集約駅で分解組成を行うため、どうしても時間がかかってしまいトラックに比べて大きく水をあけられてしまうことになる。
その反面、直行系輸送の場合は、ほぼ昔の急行列車並みの速度で運転できるため、トラックに比しても十分な競争力を持っている。(東京~大阪間で比較)
実際、収支は下記のように、直行系輸送は黒字を計上していることから、国鉄は全国の操車場を廃止して、車扱い輸送を最小限にする方向を打ち出す合理化を計画しました。
上記の図を見ていただいても判りますが、貨物の収支係数全体は154で有り、この数字が、再建監理委員会からは、国鉄の貨物は赤字であると言う結論を導き出したと言えそうです。
国労は大きく反発
そうなると、当然のことながらヤード系の職員を中心に大幅な余剰人員が発生することとになります。
さらに、国鉄の合理化計画は、83年4月15日に提示されましたが、その内容は貨物取扱駅の大幅削減で有り、全国で貨物取扱1717駅廃止、137線区(約7000km)に及ぶ長大なものでした。
さらに、6月6日には、出札窓口の大幅な統廃合などにより大幅な人員削減が計画されたとして、国労はその反対運動に取り組むことになりました
国労の思惑とは異なる提言
国労はその対応策として、国鉄研究会で国労の意向に沿った提言を期待したものと思われますが、結果的には、国労の期待に添えるものではなかったようです。
国労は当初下記のような条件を出していたと書かれていますので、国労の記事から引用してみたいと思います。
と言った内容であり、あくまでも国労に有利になるものを期待していましたが、提言自体は国労のめがねにかなうものではなかったようで、特に下記の二点は、国労にしてみれば意に沿わなかったのではないかと思われます。
- 鉄道事業は、純粋な『公共財』といえないから、租税を財源とし一般会計と直結する政府直営形態も選択肢には入らない。」
- 営形態は、政府全額出資であることは必ずしも十分条件ではない。民間資本参加の途を開く方が望ましい経営成果を期待できる」
国労にしてみれば、国鉄は公共財であり広く国民の足であると言う提言を求めていたと言えそうです。
結果的には、国労としては到底容認できないとして、拒否しています。
以下は、当該部分を引用したものです。
このように提言は、国鉄の公共性より経済性重視の考え方、民営化の方向、分割につながる分権化・減量化は不可避とするを方などをとっており、国労は提言の基調に同意できなかったので・「およそ国労の運動方針とはそぐわない内容である」と、提言の主要部分を否定した。
確かに、国鉄は昭和30年代の独占事業から比べると、高速道路の延伸などで、特に地方路線などでは、高速道路は高規格道路の方が有利で有り、貨物輸送も直行系輸送は順調に利潤を積み重ねているのに対して、ヤード系輸送は大きな赤字を生み出しており、他の輸送手段がない頃であればまだしも、トラックによる長距離輸送が一般化している時代では、鉄道のみが独占しているとは言えず、「公共財」であるという概念には立たなくなるというのが当時の一般的な考え方であったようです。
以下は、個人的な見解ですが。
高齢化社会を迎える中で、鉄道も有効な公共財と考える時期にきているのではないかと
考えてしまうのです。
続く
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第六節 国労の国鉄再建提言
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├○ 一 国労の国鉄再建提言│
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国鉄研究会の国鉄再建「提言」
国労は1983( 昭和58) 年1月に「国鉄研究会」( 座長∴局梨昌信州大学教授) を書記長の諮問機関として設置した。この研究会の目的と運営方法は、国労との申し合わせ事項では次のように位置づけられた。
「①この研究会は、国労の要請により、国鉄経営改革に関する 『提言』を行うため、各分野の専門研究者を結集して組織する。
②研究会の『提言』は、各層の支持を得ることのできる実行可能な内容のものとなるような方法を採用する。そのために、国鉄労使のみならず、国鉄関係諸団体や行政機関などから幅広く事情聴取を行い、あわせて関係資料等を収集する。③これらの事情聴取と収集した資料にもとづいて、研究会側の責任において『提言』をまとめる。④『提言』をどのように受けとめ、取り扱うかはあくまで、国鉄労働組合の主体的判断と責任にもとづいて取捨選択を委ねる。」
国鉄研究会は、84年10月5日に「国鉄の経営再建に関する提言」を国労に提出した。「提言」は、大きくは《総論》と《提言》に分かれ、《総論》は国鉄経営再建の対策を「構想するに当たって用いた分析の理論的フレームと視角」を述べており、《提言》は国鉄経営再建試案と題されていた。最も重要な経営形態については提言のなかで次のように述べられていた。
「鉄道事業は、『自然独占』的性格が強く、また現在なお競争上強い地位を保持している事業分野や路線があること考慮するなば、民営の一般企業形態は選択肢に入らない。また、鉄道事業は、純粋な『公共財』といえないから、租税を財源とし一般会計と直結する政府直営形態も選択肢には入らない。」経営形態としては「仮に『公社』という名称を継承したとして、新会社として再発足することが必要であるが、それよりも『公団』か『特殊株式会社』かのいずれかに改称して、公社の更正による再建をはかる方が現実性がある。その際、これらの経営形態は、政府全額出資であることは必ずしも十分条件ではない。民間資本参加の途を開く方が望ましい経営成果を期待できる」。企業分割については行わず、「本社機構は不可欠であ」るが、本社に残す権限は「本社でしか担当しえない最小限の業務執行に関する」ものとし、それ以外の業務は「可能なかぎり下位部門に権限を委譲する必要がある。本社の決済をその都度得ることなく、下位部門が発揮できるような仕組みを考えておかねばならない。」 このように提言は、国鉄の公共性より経済性重視の考え方、民営化の方向、分割につながる分権化・減量化は不可避とするを方などをとっており、国労は提言の基調に同意できなかったので・「およそ国労の運動方針とはそぐわない内容である」と、提言の主要部分を否定した。
続く