高木総裁に代わり、仁杉総裁就任
高木総裁は、組合との関係も決して悪いとは言えず、むしろ再建監理委員会の方針には反対の立場を取っており、分割民営化は反対というスタンスを取っていました。
最初に、仁杉総裁案をスクープしたのは、朝日新聞であり、毎日新聞は、田中社長という案をスクープしていたそうです。
結果的には、田中氏が健康上の理由などで固辞、最終的に元国鉄技師長で、西武鉄道の社長を経て、鉄道建設公団の総裁をしていた仁杉氏に白羽の矢が立ったと言うわけで、朝日のスクープが光っていました。
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当初は分割民営化容認派だった仁杉新総裁
仁杉新総裁は、就任直前のインタビューでは、監理委員会との調和を強調し、「十分に話し合って意見を尊重していきたい」と語り、分割・民営化に絶対反対の態度はとらないと述べた(朝日新聞八三年一一月二七日)。
仁杉 これは、小田急の場合には総評にも入っておりますし、歴史的にかなり激しい闘争をやった時代があるんですよ。それを乗り越えて卒業したというような感じですね。それから西武の場合には、これは堤康次郎先代の”感謝と奉仕”という言葉が各職場に掲げてあります。その意味は、やっぱりお客さまに感謝しありがたいと思って、その身になってサービスをしようという意味だと思いますげれども、まあ、そういうことでわりあいストライキとかいうようなものからは縁遠い存在のままきているのですね。国鉄もストが減少してきているようですが、私たちの職場である国鉄を再建するのは大変なことで、まず国民の、そしてお客さまの信頼をとりもどさなげれば再建の一歩も踏み出せないというととを認識する必要があり、これが全役職員に浸透しなければいけないと思いますネ。
「目下の急務は赤字を減らすことであり,そのためには民営・分割を議論することよりも,経営改善計画を着実に実行していくととが先決である。一部でこの経営改善計画が実行できるのか,また実行できたとしても幹線が黒字になるのかどうか疑問をもつむきもおられるようだが,私はこの計画は達成できるし,どうしても達成しなければならないと考えている。35万人体制を柱とするとの計画が決して幻の計画ではないということを国民の皆様にど理解願わねばと思っている」(3月1日,総裁室での高木総裁の会見から)
仁杉新総裁は、監理委員会に期待していた?
--話が変わりますが、私どもわきでみていまして、経営者の目が現場のスミズミまで届かないということの一つに、国鉄の経営陣が、大変な精力を国会対策や政府の対応についやしている。ここに大きな問題があるように思うのですが一。
仁杉 その点は否定できませんが、そういう点にメスを入れていただくためにも再建監理委員会といった制度もできたのだと思います。私といたしましても、監理委員会の方々に、実務に携わる者としての知識、経験を積極的に提供して、国鉄をよく理解していただくとともに、鉄道の果たしてゆくべき役割を踏まえたあらゆる角度からの検討を行っていただきたいと思っています。
一一私は余計な心配かと思っているのですが、監理委員会ができたために国鉄の幹部の精力がまたそちらに奪われていくということがないかということですが...。
仁杉 過渡的にはそういうこともあるかもしれませんが、国鉄のことをよく理解していただげれば、キチンとした再建の軌道も敷かれ、現場の管理もうまくいくようになると考えます。私はその点、監理委員会のご質問に応じ、ご指示に従いつつ、申し上げなげればならないことは十分申し上げてゆくつもりです。(国有鉄道 昭和59年1月号から引用
鉄労は分割民営化を推進の立場を堅持
トーンダウンする民営化容認の声
国労の記述によれば、「仁杉国鉄総裁の分割・民営化容認の発言は国鉄内で大きな波紋をまきおこした。国労・動労・全施労・全動労の4組合は共同で抗議声明を出した。」とありますが、国鉄の分割民営化に反対を唱えたのは、鉄労を除く各組合だけでは無く、国鉄当局内にもありました。
国鉄二つの大罪の中で、「職場を崩壊させた国鉄労使」として、鉄労の書記長であった志摩好達は、下記のように当時の職員局長、太田知行が、分割・民営化容認派を追い出して、反対派で固めたからだと指摘しています。
少し長いですが、引用させていただきます。
太田にとっては、職場規律の問題は、その権力奪取のための一手段にすぎぬことが明らかであった。
政府与党、マスコミの支持を受けるためには、失っても自分達が痛くないものは平気で切って捨てた。
人事もそうだが既得権もその中に含まれた。そして綿密な計算の下で動労はブルトレヤミ手当返還問題で抱え込みに成功、国労すらも、「こうした一連の強行手段は政府及び監理委員会から国鉄の分割民営化を避けるためのものだ」とのいわゆる”国体擁護”方針でまるめ込んでしまったのであった。
かつては名指しで”太田糾弾”を叫んでいた国労もその声を徐々に小さくしていったことはいうまでもない。
国労・動労、それぞれニュアンスが達うが最も恐れられているのは国鉄の分割である。
そしてこのことは、国鉄百年の利権、既得権の上に胡座(あぐら)をかいてきた本社官僚にとっても同様であった。
かってマル生問題を巡って明らかにされた国労・当局幹部の保守的結合が再び明確に表面に出てきたのであった。
昭和五十九年、新しく総裁に就任した仁杉巌が記者会見で分割民営化に前向きの姿勢を示した時、これに徹底的に反対、ついにはこれを否定し、本社内を分割民営化絶対阻止派(国体擁護派)で固めることに成功した太田は、次から次へと分割民営化阻止のための行動に出ることになった。
人事では分割民営促進派を追放、六十年一月には臨調、監理委の意向を全く否定するような「再建の基本方策」を発表、政府、与党、各党への根回しに乗り出したのである。
結局、太田は、国鉄改革の抜本的な対策は否定したのであった。
声明は、仁杉総裁の発言は「経営の最高責任者が国民の共有機関である国鉄の存続を自ら否定したものであり、とうてい容認」できないとして、発言の撤回を求め、国鉄当局が分割・民営化に固執するならば「4組合はいかなる犠牲を払ってもこれを阻止する決意である。」という強い姿勢を表明した。
また、分割民営化容認派であった、仁杉総裁も上述のように常務理事などの分割・民営化反対派の説得で、民営化容認の発言はトーンダウンしていくことになり。
やがて、そうした情報は官邸に届くところとなり、更迭されることなりました。
この辺の事情は今後更にもう少し詳しく調べていきます。
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国鉄があった時代 JNR-era
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第2章、国鉄分割民営化攻撃と国労攻撃
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第3節 59・2ダイヤ改正後の余剰人員対策をめぐる交渉
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三 第二次提言と国労の対応
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├○ 仁杉総裁の分割・民営化容認発言│
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監理委員会は、84年6月4日、第2次緊急発言に分割・民営化の方向を盛り込むことに決めた。この決定は、分割・民営化反対論が野党はもちろんのこと自民党の一部にも根強くあり国鉄内部はまだ現状維持派が主流を占めているという状況のもとで、早めに基本方針を打ち出すことによって世論調査を整えるという狙いをもっていた。
監理委員会のかかる目論見を引きとるかのように、仁杉国鉄総裁は6月21日に日本記者クラブでの講演で「分割・民営化も基本的には賛成だ」という見解を表明した。そして、「分割・民営化について監理委員会以外ではタブーになっているきらいがあるが、国鉄としても実務家として監理委員会に案を持って行きたい」と述べた。
つづいて、三塚自民党「国鉄再建問題小委員会」委員長が『国鉄を再建する方針はこれしかない』と題する著書を発行し、国鉄再建は分割・民営化が基本だと主張し、監理委員会を支援する側に回った。三塚委員長は、以前には「国鉄の経営改善計画」の実施状況を見守り、その結果によって分割。・民営化を検討するという「出口論」の立場をとっていたが、「入り口論」に方向転換したのである。
鉄労は6月26日の中央委員会で「国鉄経営再建に関する意見と提言」案を示し、地域本社制の導入と公社から特殊法人への転換する案を示し、国鉄自ら外圧によらず新経営体を推進するようにという、監理委員会にやや近寄った方向を打ち出した。
仁杉国鉄総裁の分割・民営化容認の発言は国鉄内で大きな波紋をまきおこした。国労・動労・全施労・全動労の4組合は共同で抗議声明を出した。声明は、仁杉総裁の発言は「経営の最高責任者が国民の共有機関である国鉄の存続を自ら否定したものであり、とうてい容認」できないとして、発言の撤回を求め、国鉄当局が分割・民営化に固執するならば「4組合はいかなる犠牲を払ってもこれを阻止する決意である。」という強い姿勢を表明した。
総裁発言に翌日には国鉄当局と緊急交渉が開かれ、組合側は国鉄総裁を厳しく追求した。そして、国労は仁杉発言に対し全組合員が抗議行動に立ち上がるよう指令した。国鉄経営陣の中でも仁杉総裁発言を撤回した。