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日本国有鉄道 労働運動史

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国鉄労働組合史詳細解説 122

久々に更新させていただきます。

最初から民営化ありきではなかった国鉄改革

国鉄では、昭和55年の「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」により、国鉄は最後の再建計画と言うべき再建計画を策定することとなりました。

それまでは、どちらかというと数字合せに終始していた再建計画ですが、ここに来て、国鉄にこれ以上は待てないからと言うことでいわゆる詰め腹を切らせる、そんな状況であったと言えそうです。
この法令により、特定地方交通線と呼ばれたローカル線についてもメスが入れられることとなりました。

組合運動の話に入る前に、法令の条文を一部抜粋しましたのでご覧いただこうと思います。

瀬野八のEF59 画像は直接本文と関係ありません。

瀬野八にて

日本国有鉄道経営再建促進特別措置法

法律第百十一号(昭五五・一二・二七)

 (趣旨)

第一条 この法律は、我が国の交通体系における基幹的交通機関である日本国有鉄道の経営の現状にかんがみ、その経営の再建を促進するため執るべき特別措置を定めるものとする。

 (経営の再建の目標)

第二条 日本国有鉄道の経営の再建の目標は、この法律に定めるその経営の再建を促進するための措置により、昭和六十年度までにその経営の健全性を確保するための基盤を確立し、引き続き、速やかにその事業の収支の均衡の回復を図ることに置くものとする。

 (責務)

第三条 日本国有鉄道は、その経営の再建が国民生活及び国民経済にとつて緊急の課題であることを深く認識し、その組織の全力を挙げて速やかにその経営の再建の目標を達成しなければならない。

2 国は、日本国有鉄道に我が国の交通体系における基幹的交通機関としての機能を維持させるため、地域における効率的な輸送の確保に配慮しつつ、日本国有鉄道の経営の再建を促進するための措置を講ずるものとする。

 (経営改善計画)

第四条 日本国有鉄道は、運輸省令で定めるところにより、その経営の改善に関する計画(以下「経営改善計画」という。)を定め、これを実施しなければならない。

2 経営改善計画は、次の事項について定めるものとする。

 一 経営の改善に関する基本方針

 二 事業量、職員数その他の経営規模に関する事項

 三 輸送需要に適合した輸送力の確保その他の輸送の近代化に関する事項

 四 業務の省力化その他の事業運営の能率化に関する事項

 五 運賃及び料金の適正化その他の収入の確保に関する事項

 六 組織運営の効率化その他の経営管理の適正化に関する事項

 七 収支の改善の目標

 八 前各号に掲げるもののほか、運輸省令で定める事項

3 日本国有鉄道は、毎事業年度、経営改善計画の実施状況について検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない。

4 日本国有鉄道は、経営改善計画を定め、又はこれを変更するに当たつては、輸送の安全の確保及び環境の保全に十分配慮しなければならない。

5 日本国有鉄道は、経営改善計画を定め、又はこれを変更しようとするときは、運輸大臣の承認を受けなければならない。

この後、第8条~14条で、国鉄ローカル線の扱いについて法律が定められているのですが、いたずらに条文ばかりになるので省略させていただきます。

なお、下記に条文のリンクを貼っておきましたので、ご覧いただければ幸いです。

日本国有鉄道経営再建促進特別措置法

この措置により、国鉄は本格的な再建計画に立ち向かう事になるのですが、混同されている 方も多いのですが、「臨調答申」と、「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」が全く別物であり、臨調がなくとも、ローカル線の廃止は行なわれていました。

臨調の目的は、官僚組織の改革【改変】

臨調は、国鉄ローカル線の廃止や、国鉄の組織改革と言うよりも、官僚組織全体に切り込む事を目的とされたものでしたが、当然のことながら省庁からの警戒【特に大蔵省が一番気にしていたとも言われています】があったようで、最終的には中央省庁の改変はないことで、落ち着いたとも言われています。

国労も以下のように述べていることで理解していただけるかと思います。

もっとも、「労働慣行の否認、労働条件の切り下げ、労働者支配の確立を図ろうとした」と言う表現は組合らしい表現と言えば表現ですけどね。

先に述べたように、国鉄は、81年5月に「経営改善計画」を策定し、35万人体制を目標として、85年度に幹線の収支均衡と一般営業損益の黒字化を達成しようとした。ところが、臨調行革の開始によって変更を余儀なくされた。

臨調の基本答申にあった11項目の緊急措置は、82年9月に閣議決定され「緊急対策10項目」にまとめられた。国鉄当局は、この閣議決定にしたがい「経営改善計画」を前倒ししたり、見直すことで国鉄の減量化と労働慣行の否認、労働条件の切り下げ、労働者支配の確立を図ろうとした。

赤字の主たる原因は特定人件費とローカル線?

改めて整理してみますと、「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」は国鉄を解体するものではなく、むしろ国鉄を温存させるためのものでした。

ただ、ローカル線の廃止はやむを得なかった部分がありました、それは、国鉄の赤字を大きくさせている原因の一つが、国鉄ローカル線からの赤字でした。

他にも、国鉄の赤字の主要な原因としては、戦後の混乱期に受け入れた復員兵や、満州鉄道の職員の受け入れ等で膨れ上がった職員の人件費でした。

その辺を、昭和56年の「監査報告書」から引用してみたいと思います。

 (1) 財政の状況ア収支の状況昭和56年度の収支状況は第2表のとおりである。その内訳をみると、幹線においては、貨物収入が前年度に対し減少したものの、旅客収入及び関連事業収入の増加、要員縮減等経費節減努力、並びに営業外損益の改善の結果、その収支は前年度に対し931億円の改善となった。したがって、幹線の収支は、昭和60年度の収支均衡に向かつて一定の前進が認められるが、その損失はなお3244億円の巨額に上っており、今後特段の経営努力が必要である。一方、地方交通線・地方パスの損失は2806億円となり、前年度に対し353億円増加した。
また、特定人件費(退職手当・共済年金負担金の異常支出分)が4809億円となり、前年度に対し1353億円増加した。この結果、両者の合計7615億円は損失の70%を占めるに至り、経営悪化の重大な要因となっている。

ここで、国鉄の赤字の70%が人件費とローカル線による損失が大きく、幹線系も3244億円と赤字額は大きいものの、前年度に対して931億円の改善と言うことで、着実に赤字が減少していることが窺えます。

ただ、それでも、未だ未だ貨物などが減少しているにも関わらず、業務委託などが進んでいないとして昭和57年の会計検査院の調査で指摘されるのですが、その辺はまた別の機会にさせていただこうと思います。

また、国労が指摘する、臨調に関する話は、次回にさせていただこうと思います。

国鉄監査報告書 昭和56年

国鉄監査報告書 昭和56年

 

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*************************以下、国労の記事から*********************************

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第2章、国鉄分割民営化攻撃と国労攻撃

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第五節 国鉄の独自再建案と
     地方本部交通線廃止反対闘争一 国鉄の経営改善計画の修正
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 先に述べたように、国鉄は、81年5月に「経営改善計画」を策定し、35万人体制を目標として、85年度に幹線の収支均衡と一般営業損益の黒字化を達成しようとした。ところが、臨調行革の開始によって変更を余儀なくされた。臨調の基本答申にあっ
た11項目の緊急措置は、82年9月に閣議決定され「緊急対策10項目」にまとめられた。国鉄当局は、この閣議決定にしたがい「経営改善計画」を前倒ししたり、見直すことで国鉄の減量化と労働慣行の否認、労働条件の切り下げ、労働者支配の確立を図ろうとした。「経営改善計画」はもともと既存の労使関係を前提に、大量退職時代を条件に作成されていたが、第二臨調は国鉄の労使関係を破壊し、徹底した国鉄のスリム化から分割・民営化を展望していた。かくして、「計画」と「実情」がかけはなれ、「計画」を修正せざるを得なかった。84年5月17日に修正された「計画」が発表された。修正された「計画」の主な内容は次のとおりである。
①輸送量については、当初計画より旅客で141億人キロ、貨物で178億トンキロの縮小、
②貨物輸送については、ヤード系輸送を廃止して拠点間直行輸送に全面転換する、③要員合理化については、83年度以降の新規採用停止、これに伴い、85年度の要員規模を当初計画の35万人から32万人に改定する。

 この結果、85年度の収支の変更は、①幹線については、当初計画より営業損益で悪化するが、資産売却等を含む営業外損益で利益が増えるため幹線収支では200億円の利益を見込む、②一般営業損益では、当初計画を下回る200億円の利益を見込む、③全体の収支では、地方交通線・地方バスから生ずる損失が大きくなり、当初計画より悪化する見込みである。
86年度以降の経営構想として、①大都市圏や都市間輸送への重点化指向をより強化する、②私鉄並の生産性を目指して効率化を徹底する、

③地域性を重視した体制とする、

④事業の自由化を図る。
 
 この「経営改善計画」修正の最大のポイントは、貨物のヤード系輸送を全廃したことであった。この施策の実施により大量の余剰人員が生み出された。
 国労は、「経営改善計画」に対し「国民の願う再建策は全くとりいれられず、国民と国鉄労働者に犠牲をより強要する内容であり、賛同できない」と批判した。「計画の変更が監理委員会の緊急措置を実施したためということであれば、国鉄としての主体性がない。
さらに、計画内容も再建へ向けての積極的展望が全体を通じて欠けている」と批判した。
 国鉄は、運輸省に変更計画案の承認申請をしていたが、5月17日に承認された。承認にあたって監理委員会は、この計画案についての意見を求められており、17日に運輸相に意見書を提出した。意見書のなかで監理委員会は、83年の緊急提言に照らし
合わせると、今回の変更計画案は「今後格段の努力が必要」との不満を示した。監理委員会は意見書の最後に「国鉄事業の再建は、従来の施策の延長線上においてこれを実現することは極めて困難であり、経営形態の問題を含め抜本的な改革を行わなければ達成できない」と強調した。
 この監理委員会の意見書の内容は、運輸大臣から国鉄当局に伝えられた。全国一社制の維持を最大の目標においている国鉄首脳陣にとって、それを実現するシナリオを完成することがますます必要となったのであった。

続く