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日本国有鉄道 労働運動史

鉄道ジャーナリストこと、blackcatの国鉄労働運動史

国鉄労働組合史詳細解説 126

久々に更新させていただきます。

今回は、昭和59年に実施される運賃改正に関連する項目について述べさせていただこうと思います。

 今回の運賃改正で、線区別運賃制度が導入されることに

国鉄では、再日本国有鉄道再建監理委員会、昭和58年8月2日に、政府に対して

「全国一律運賃制度について早急に是正することとし、例えば、大都市圏,新幹線、その他の幹線、地方といった分野にわけ大都市圏は厳しく抑制し、地方は割増を行うなど、原価を十分配慮して格差をつけるべきである」

と言う提言がなされ、全国一律運賃制度について早急に是正する機運が高まりました。

国鉄の運賃は、鉄道省運輸省)直営時代から法令で定められており、財政法の適用を受けていました。

マッカーサー書簡により国鉄が、公共企業体に衣替えしたときも、独立採算制という建前の元会計制度を独立させた反面、運賃などの許認可は政府に残され、旅客運賃は、財政法並びに運賃法に基づく、法定運賃制度となっていました。

詳細な条文等は下記に記載していますが、これにより国鉄の運賃は必要な時期に改訂が出来なかったり、必要な資金を値上げでカバーできず、高い金利で借りざるをえなかったりという矛盾を包含したまま推移していくこととなりました。

こうした話は、労働運動の話と関係ないと思われるかもしれませんが、国鉄運賃のあり方を知っていただくことが、今回の線区別運賃導入に至ったかという経緯を確認するのにわかりやすいと思いますので、しばしお付き合い願いたいと思います。

国鉄の運賃は財政法の適用を受けている

国鉄時代の運賃は、財政法と呼ばれる、昭和二十二年三月三十一日法律第三十四号で制定された法律に規定されていました。

その、財政法3条には下記のように記載されていました。

さらに、翌年昭和23年4月14日に制定された、財政法第三条の特例に関する法律 法律第27号でも、国鉄運賃などは引き続き、法律によることとして、除外規定が設けられていました。

以下は、条文の抜粋になります。

 財政法 法律三十四号(昭二二・三・三一)

(課徴金、独占事業における専売価格及び事業料金の法定主義)
第三条
租税を除く外、国が国権に基づいて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に属する事業における専売価格若しくは事業料金については、すべて法律又は国会の議決に基いて定めなければならない。

 

財政法第三条の特例に関する法律

法律第二十七号(昭二三・四・一四)

 政府は、現在の経済緊急事態の存続する間に限り、財政法第三条に規定する価格、料金等は、左に掲げるものを除き、法律の定又は国会の議決を経なくても、これを決定し、又は改定することができる。

 一 製造煙草(外国煙草及び輸出用製造煙草を除く。)の定価

 二 郵便、電信、電話、郵便貯金、郵便為替及び郵便振替貯金に関する料金

 三 国有鉄道国有鉄道に関連する国営船舶を含む。)における旅客及び貨物の運賃の基本賃率

附 則

 この法律施行の期日は、その成立の日から十日を超えない期間内において、政令でこれを定める。

 この法律は、物価統制令の廃止とともに、その効力を失う。

 財政法第三条の規定施行の際現に効力を有するこの法律の本則各号に掲げる定価、料金及び基本賃率は、財政法第三条の規定施行の日において、同条の規定に基いて定められたものとみなす。

(内閣総理・外務・大蔵大臣・法務総裁・文部・厚生・農林・商工・運輸・逓信・労働大臣署名)

 昭和57年8月に発行された、監査報告書 P24には下記のように書かれています。

以上のように、たばこ、郵便、電信電話料金等とともに、国鉄の賃率は法令で定めることとし、勝手に改訂できないというなっていて、これが国鉄末期まで続くことになりました。

更に賃率は、運賃法により下記のように定められていました。

(鉄道の普通旅客運賃)

第三条

鉄道の普通旅客運賃の賃率は、営業キロ一キロメートルごとに、六00キロメートルまでの部分については七円九O銭、六00キロメートルを超える部分については三円九O銭とする。

ニ 鉄道の普通旅客運賃は、営業キロ区間別に定めるものとし、その額は、各区間の中央の営業キロについて前項の賃率によって計算した額とする。

(第一項の賃率は、現行法においては附則一O条のこの規定により運輸大臣の認可によって国鉄が定めることとしている。)

 この件に関して、昭和58年6月の国鉄線で、

前 総裁室法務課補佐・現 大阪駐在理事室補佐 庄垣内氏が、「国有鉄道運賃法と営業キロ」という記事を投稿しており、国鉄再建法において、地方交通線の運賃について、「必要な収入の確保に特に配慮して定めるものとする」との規定がなされたことで、全国一律の運賃制度を見直すことが法律的に認められた事は一歩前進であるとして、記事を掲載しています。

国鉄線昭和58年6月号 国有鉄道運賃法と営業キロ

国鉄線昭和58年6月号

以下は、日本国有鉄道経営再建促進特別措置法から引用したものです。

日本国有鉄道経営再建促進特別措置法
法律第百十一号(昭五五・一二・二七)

地方交通線の運賃)

十三条 日本国有鉄道は、地方交通線の運賃については、地方交通線の収支の改善を図るために必要な収入の確保に特に配慮して定めるものとする。

 なお、国鉄監査報告書でも、昭和57年8月に報告された監査報告書にも下記のように記述されています。

線区や地域などの実態に応じた運 賃・料金を設定し得るよう、早急に全国一律の運 賃制度を見直し、線区別、地域別運 賃の導入を図るための所要の措置を講ずることが必要である。

このように、国鉄の地方ローカル線に関しては、廃止が促進される一方で、地方交通線にあっては、特定運賃を設けても良いとする事が法令的にも明記されたことから,国鉄は本格的に運賃の制度について検討することとなりました。

国鉄運賃は擬制キロで検討する方向に

国鉄では、営業キロと実キロという方法を以前から採用しており、新幹線の場合は在来線と比べると実キロは短いのですが、東海道線の線増であるという位置づけで、新幹線の実キロ、515.4kmを在来線と同じ552.6kmで計算したことは,運賃法に照らして誤りであるとして,昭和50年に裁判が行われたこともあり、慎重に議論されることとなったようです。

なお、当該事件は、「新幹線運賃差額返還訴訟」として、wikipediaに概要が載っていますが、国鉄は以前から営業キロという概念を採用しており、裁量権国鉄にあるとして、最終的には最高裁まで争われたこの事件は一審、国鉄側敗訴、二審、国鉄勝訴、最高裁では控訴棄却で高裁の判決が確定しています。(最高裁の決定は、昭和61年3月28日  昭和57(オ)1129 旅客運賃不当利得返還

最高裁の判決前に、擬制キロによる運賃は導入されているのですが、国鉄としては従来からも運賃計算の煩雑さを避ける為、もしくは営業的見地から敢えて実キロよりも短い距離を選択する場合もあり、当然その逆も然りでしたので、こうした地方交通線の運賃については特段の配慮を求めるということで、線区別運賃の可能性が認められたことから、積極的に擬制キロを使用して同一賃率では有るものの線区によって運賃が異なる運賃値上げを昭和59年2月から実施することとなったのです。

これに対する、国労の動きは、次回改めて論じたいと思います。

続く

豊川駅に停車中の流電ことモハ52 画像は直接本文と関係ありません

豊川駅に停車中の流電ことモハ52

 

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