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日本国有鉄道 労働運動史

鉄道ジャーナリストこと、blackcatの国鉄労働運動史

国鉄労働組合史詳細解説 80

国鉄当局は「緊急11項目」の一環として「乗車証制度の改正」に着手する動きを見せていたが、82年10月15日に初めてその改定を明らかにし、理由を明示しないまま10月22日をタイムリミットに設定してきた。すでに国労は、当局のこうした動きに対し、臨調答申に屈して改悪すべき制度ではないとの立場から、乗車証制度は職責の重要な雇用・労働条件である点を重視して、「国鉄110年の中で確立された制度であり、就職の際に明示された雇用・労働条件である」こと、それゆえ「労使協議の上意見の一致を見て制度の改正は実施すべきである」こと、また、乗車制度の基本は「精勤乗車証・永年乗車証・家族割引である」こと、などを上げ改悪反対を主張した。動労。全施労・全動労もこれを重要課題と位置づけ、「改悪反対」で意思統一をはかり4組合共闘体制を組織してきた。
 こうした取り組みの中で国労本部、退職者組合、家族会は、45万名にのぼる、改悪反対署名を携えて再三にわたり本社衆参交渉を申し入れたが当局は「集団交渉には応じられない」とする姿勢を取り続けた。その他にも、ハガキ、電報による抗議、現場長・局長に対する抗議交渉などを組織した。

自民党国鉄基本問題調査会の提言

として、下記の15項目が提言されました。
今回は、乗車証に関するお話のため、直接関係ない部分に関しては提言内容は省略させていただきました。

出典・

法政大学大原社研 1981〜1982年国鉄労働者と労働組合にたいする攻撃〔日本労働年鑑 第53集 295〕

 

【提言の要旨】
 一、管理体制の強化

 労務指揮、施設管理等の管理権は殆んど行使されていない現状にある。今、労使関係の是正を考えるとき、原点に立ち返って、業務命令、時季変更権、施設管理権を適正に行使し、従わない者に対しては厳正な勤務認証、現認を行い、賃金カツト・昇給カット・処分などの措置をとることが必要である。

 従来ややもすれば、管理権の行使が列車の運行を阻害することを恐れて組合の不法な要求に屈した例が多いが、このため、多くのヤミ協定を残し、国鉄の存立を脅かす結果となっている。列車の正常運行は長期にわたって確保されるべきものであり、そのためには一時的な混乱を恐れないで筋を通す覚悟が必要である。
 二、現場協議

 現場協議は、国労の職制麻痺闘争の場を提供した結果となり、管理者の大きな負担と業務遂行の障害となっている。現協協定をまずいったん破棄し白紙に戻したうえで、現場における業務遂行上必要な現場長と職員の意思疎通をはかる制度を新たに検討、制定すること。
 三、ヤミ協定、悪慣行

 国鉄の職場には数多くのヤミ協定、悪慣行が存在するが、これらのほとんどは、現場長の責任と権限を超える事項についての確認、または社会常識を著しく逸脱したものであり、集団的な威嚇行動のもとにつくられたものであるから、そもそも無効であり、当局を拘束する力を持っていない。即刻無効であることを宣言し、正規の運用とすること。
 四、処分に関する問題(概要省略)


 五、違法ストに対する刑事罰

 (概要省略)
 六、職員に対する求償権の行使
 (概要省略)
 七、昇給・昇格

 (概要省略)
 八、紛争対策委員会の覚え書等

 (概要省略)
 九、合理化の促進

 (概要省略)
 一〇、配転

 (概要省略)
 一一、採用と採用時教育

 (概要省略)
 一二、便宜供与

 (概要省略)
 一三、兼職議員の禁止

 徹底した要員削減に取組むなかで、国鉄の要員事情もきわめて逼迫した状態にあり兼職議員の承認を与えることは到底許されないことである。緊急の措置として、政府より国鉄総裁に対し兼職議員の承認を与えないよう指示すること。
 一四、乗車制度の見直し
 国鉄のおかれている状況、世間の強い批判にかんがみ、乗車証等については誤解を招くことのないよう厳正に見直す。

 一五、(概要省略)

 また、これを受けて、国鉄は昭和57年7月に

「新形態移行までの間緊急にとるべき措置」

として11項目を明示しました。

これらの方針は、自民党を中心とした与党の国鉄基本問題調査会の提言を受けたものであり、いわゆる後ろ盾を得ての行動であったことが伺えます。

  1.   職場規律の確立を図るため、職場におけるヤミ協定および悪慣行(ヤミ休暇、休憩時間の増付与、労働実態のともなわない手当、ヤミ専従、管理職の下位職代務等)は全面的に是正し、現場協議制度は本来の趣旨にのっとった制度に改める。また、違法行為に対しての厳正な処分、昇給・昇格・昇職・管理の厳正な運用、職務専念義務の徹底等人事管理の強化を図る。

  2.  新規採用を原則として停止する。また、業務運営全般について、私鉄並の生産性をめざすこととし、そのため、作業方式、夜間勤務体制、業務の部外委託、職務分担のあり方等の抜本的な見直しを行い、実労働時間の改善を図るとともに、配置転換を促進し、各現場の要員数を徹底的に合理化する。

  3.   設備投資は、安全確保のための投資を除き原則として停止する。なお、整備新幹線計面は、当面見合わせる。

  4.   貨物営業は、鉄道特牲を発揮できる拠点間直行輸送を中心とし、業務のあり方を抜本的に再検討し、固有経費における収支の均等を図る。

  5.   地方交通線の整理を促進するため、遅延している特定地方交通線対策協議会の単期蘭催を図るとともに、残余の対象路線についても昭和60年度までに結異が得られるよう早急に選定を行う。なお、対策が進まない場含、たとえば特定地方交通線対策協議会開催目の義務付け、協議期間の短縮等の改正を行う。また、上記以外の特定地方交通線を含む地方交通線についても、私鉄への譲渡、第3セクター化、民営化等を積極的に行う。

  6.  分割会社との間係を配慮しつつ、自動車、工場および病院の分割等を推進する。

  7.  永年勤続乗車証、精勤乗車証および家族割引乗車証を廃止する。その他職員にかかわる乗車証については、たとえぱ勤務区間に限定するなど業務上の必要のためのみに使用されるよう改める。また、国鉄以外の者に対して発行されているすべての乗車証についても廃止する。なお、他の交通機関との間に行われている相互無料乗車の慣行を是正する。

  8.  期末手当、業務手当等の抑制について検討する。

  9.  国鉄運賃については、当該地域における私鉄運賃、線区別原価等をも十分配慮して定める。また、安易な運賃改定は行わない。なお、文教政策、社会福祉政策等の観点からの通学定期割引等の運賃の公共負担については、国として所要の措置を講ずる。

  10.  兼職議員については、今後、認めないこととする。

  11.  資産処分の一層の促進を図るとともに、関連事業についても営業料金等の見直しを行う等積極的な増収に努める。

参照 国鉄があった時代(企画・監修 加藤公共交通研究所)

兼職議員に禁止と同じく既得権益の廃止となるため、組合としても反対することとなりました。

国労の記録によれば、動労。全施労・全動労もこれを重要課題と位置づけ、「改悪反対」で意思統一をはかり4組合共闘体制を組織してきた。」

と書かれているように、この時点では動労も・全施労何れものちに労使協調宣言して、鉄労と歩調を合わせるのですが、この時点では反対している点は注目すべきだと思います。
ただ、鉄労が反対していないのは積極的にそうした当局の施策を容認したと言うよりも国労が反対しているから、反対しようと言った消極的な意味合いからの反発だと推測されます。(ただし、この辺はあくまで個人的な見解であることをあらかじめお断りしておきます。)

なお、乗車証廃止に対して、国労に限らず、退職者組合、家族会等による45万名にのぼる改悪反対署名を携えて再三にわたり本社衆参交渉を申し入れたが当局は「集団交渉には応じられない」とする姿勢を取り、交渉は最終的に決裂、昭和57年12月1日をもって実施されることになりました。

下記は、国鉄部内雑誌、国有鉄道昭和58年1月号からの抜粋になります。

f:id:whitecat_kat:20171119094425j:plain

引用  交通協力会 電子図書館

なお、本件について当局が団体交渉に応じないことに対しては、国労の記録でも書かれていますが、

国労は翌83(昭和58年)年2月12日、当局の団体交渉応諾義務確認の訴えを東京地裁に提訴し、さらに10月27日には500万円の損害賠償請求を追加した。」

とされています、損害賠償については全額認められることになりますが、乗車証廃止については団体交渉で対応すべきものであり、団体交渉に応じなかった国鉄当局側に非があるが、廃止に基づく損害は認められないと言う立場でした。

なお、国労最高裁まで控訴しますが、東京高裁判決(昭和62・1・27)も地裁判決を維持し、最高裁第三小法廷判決(平成3・4・23)も高裁判決を維持したことで、乗車証を廃止したことに関しては確定しています。

裁判所のホームページから参照した、上記裁判の判決

f:id:whitecat_kat:20171119102510j:plain

 

全文はこちらを参照。

 

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第1章、臨時=行革路線と国鉄労働組合

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 第2節 80年代前半の国労つぶし包囲網との闘い
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二 臨調基本答申に対する国労の対応とその後の闘い

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├○ 三 臨調=行革路線に基づく国労攻撃との闘い│
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 条制度の改訂(無料乗車証廃止)と団体交渉拒否

 国鉄当局は「緊急11項目」の一環として「乗車制度の改正」に着手する動きを見せていたが、82年10月15日に初めてその改定を明らかにし、理由を明示しないまま10月22日をタイムリミットに設定してきた。すでに国労は、当局のこうした動きに対し、臨調答申に屈して改悪すべき制度ではないとの立場から、乗車証制度は職責の重要な雇用・労働条件である点を重視して、「国鉄110年の中で確立された制度であり、就職の際に明示された雇用・労働条件である」こと、それゆえ「労使協議の上意見の一致を見て制度の改正は実施すべきである」こと、また、乗車制度の基本は「精勤乗車証・永年乗車証・家族割引である」こと、などを上げ改悪反対を主張した。動労。全施労・全動労もこれを重要課題と位置づけ、「改悪反対」で意思統一をはかり4組合共闘体制を組織してきた。
 こうした取り組みの中で国労本部、退職者組合、家族会は、45万名にのぼる改悪反対署名を携えて再三にわたり本社衆参交渉を申し入れたが当局は「集団交渉には応じられない」とする姿勢を取り続けた。その他にも、ハガキ、電報による抗議、現場長・局長に対する抗議交渉などを組織した。
 制度の改定が提示された直後の10月20日にもたれた対当局交渉において、国労は従来からの主張に合わせ、
 ① 理由を明示しないタイムリミットの設定は認められないこと、
 ② 意見の一致を期すために実施期日を延期すべきであること、などを要求したが当局は「22日がタイムリミットである」こと、乗車証は「労働条件ではなく恩恵的な便宜供与である」こと、制度の廃止は「閣議決定であり、世論の批判を十分受け止める必要がある」こと、などと従来の主張を繰返した。翌21日には常務理事との準トップ会談、つづく22日にも交渉がもたれたが、当局は同様な主張を繰り返す一方、12月1日実施を強行に主張して譲らなかったため交渉は決裂した。
 そうした状況の中で当局は、10月22日、① 無料乗車証については職務乗車証を除き全廃する。② 職務乗車証については全国通用のものは廃止し、職分などに応じて「管理局」通用、「地域ブロック」通用のものなどとする。③ 精勤乗車証、永年勤続乗車証は廃止し、割引制度を設ける。④ 家族割引については発行枚数の縮減を図る(年20枚)、などを内容とする「乗車制度改定」を発表し、82年12月1日、一方的に強行実施した。
 その後も国労は、乗車制度の根幹は維持すべきであり、重大な労働条件の変更であるから団交による問題解決をするよう主張したが、当局は”話し合い”には応じるがこの制度は「団体交渉の対象事項には含まれないとした。そこで国労は翌83年2月12日、当局の団体交渉応諾義務確認の訴えを東京地裁に提訴し、さらに10月27日には500万円の損害賠償請求を追加した。
 提訴から3年後の東京地裁判決(昭和61・2・27は、「労組法第7条の規定は、単に労働委員会にける不当労働行為救済命令を発するための要件を定めたものであるにとどまらず、労働組合と使用者の間でも私法上の効力を有し」、「労働組合が使用者に対して団体交渉を求める法律上の地位を有し、使用者はこれに応ずべき地位にある」から、その侵害に対して公労委に対する「救済申し立て権が発生する」とした。そして、乗車制度が労働条件にかかわり、団交の対象事項にあたるかについては、職務乗車証、精勤乗車証、永年勤続乗車証等の交付と使用の実態、さらに国鉄当局が職員の募集や採用に際して乗車証制度を待遇の一つとしてあげていたことから、「本健常者制度の改廃に関する事項は、公労法第8条4号にいう『労働条件に関する事項』に該当」することは明らかとした。ただし、損害賠償請求については「団体交渉事項であることが確認される」ことにより、「相当程度損害が回復され得るものとみることができる」として否定した。
 この判決について国鉄当局は控訴したが、東京高裁判決(昭和62・1・27)も地裁判決を維持し、最高裁第三小法廷判決(平成3・4・23)も高裁判決を維持した。

続く