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日本国有鉄道 労働運動史

鉄道ジャーナリストこと、blackcatの国鉄労働運動史

国鉄労働組合史詳細解説 124

今回も、国労の資料ではなく、国有鉄道(国鉄の部内誌)から「自民党国鉄再建に関する小委員会」の設置について」昭和57年10月号から当時の国鉄並びに自民党の動きをご覧いただこうと思います。

臨調と国鉄の経営計画

国鉄の改善計画は、昭和56年5月に策定され10ヶ月ほどしか経ていないにもかかわらず、新たに「国鉄再建に関する小委員会」という小委員会を開催する事になったのでしょうか?その経緯は?ということで書かせていただきました。
それは、前年の大蔵省に対する助成金を減額する動きに対する牽制として、国鉄が本気で改革を進めていることを示さなくてはならないとして、設けられたもので、「国鉄の労使関係の改善は最大の課題である」として下記のように国鉄幹部に発言しています。

その辺を引用してみたいと思います。

予算編成もほぼ形がついた頃,交通関係議員と運輸省国鉄幹部との会議の席上,三塚交通部会長から国鉄幹部に対しとくに次のような発言があったことは,この間の事情を物語る。「56年度の経営改善は明確にやってもらいたい。これは大蔵省とのやりとりの最大の問題だった。大蔵省が助成の大幅切りこみを要求したのに対し『結果批判を受けるが計画を現在遂行中であり年度内には必ずやらせる』といってある。われわれも危機感をもって対応している。これは命運をかけたポイントである。56年1万2000人削減は必ずやってほしい。交通関係議員を代表してこれだけは強く要請しておきたい」このような情勢を背景に、国鉄の合理化を担保し、国鉄労使の態度が国民に受け入れられるようにするためには,その最大の障害と考えられる労使関係に徹底的にメスを入れ,実態に即した改善が必要と考えられた。

国有鉄道 昭和57年10月号

自民党の動き

この辺は当時の国鉄を取り巻く環境の厳しさを伝えているかと思います。

更に、こうした発言を受けて、自民党では、政権与党として臨調に単純に同調するのではなく、正すべきところは正すとして、翌昭和57年2月2日「国鉄再建に関する小委員会」を設置して、積極的な聞き取り調査などを実施して行きますが、国鉄改革三人組*1を擁した三塚博が中心にいた事も大きかったと言えます。

三塚博は、「管理経営権及び職場規律確立に関する提言を昭和57年4月16日に自民党に報告、同報告は自民党内の総務会の決定を経て、運輸大臣ならびに国鉄総裁に伝達されています。

これにより、マスコミ等を通じて、国鉄の現場の実態が徐々に明らかとなりました、当時の職員局長は、鷹派と言われた太田知行氏であり。

氏としても、自身の権力奪取の目的もあったのか、この時期は比較的積極的に協力していますが、最終的には国体護持派(現状維持派)として、批判されることになります。

この辺は、志摩好達氏の「国鉄二つの大罪」の中で書かれた、「ミイラ取りがミイラになった太田労政」と言う章立てに部分に出てくる記事を思い起こすことが出来ますが、この辺は、本編と直接関係がありませんので、割愛させていただきます。
一応関連記事をアップしておりますので下記リンクも参考にしてみてください。

whitecat-kat.hatenablog.com

国鉄再建に関する小委員会」の開催日とその内容

引き続き、開催日とその内容の概略を、国有鉄道 昭和57年10月号を参照しながら書き出してみたいと思います。

  • 第1回 2月5日(金)設置の目的、運営方法等につき説明があり、
    1. 臨調と対立するものではなく、党としての責任で、国鉄問題に明確な方向付けを行な宇事を目的とする。
    2. 国鉄の問題は・財政問題・組織・経営権の問・職場規律の問題があり、検討を深めるとともに現場実態調査を行なう事を明言
  • 第2回  2月9日(火)マル生当時職員局能力開発課長だった大野光基氏を招き、マル生以後の国鉄の職場管理、労使関係について氏の見解を聞き質疑

    日本国有鉄道 労働運動史(別館) も併せてごらんください。

  • 第3回 2月12日 (金)スト権スト損害賠償請求訴訟(昭和51年2月14日 国鉄、スト権ストに伴う202億円の損害賠償を要求、国労・動労相手に東京地裁へ提訴 )について、今日までの経過と今後の方針について国鉄から聴取。
  • 第4回 2月16日 (火)マル生直後の現場管理者の状況を国鉄OB等3名を招き、その経験談を聴取、質疑等。
  • 第5回 2月19日(金)現場協議制度について国鉄から説明を受ける。
    現場協議が当初の趣旨に反して団体交渉の下請に化しており職場規律の乱れの原因になっていること、現場協議などの場でヤミ協定が結ぼれている事などが明らかになる。委員からは、当局は明確に無効宣言を出し、その上で現場協議協定は破棄すべきだとの主張
  • 第6回 2月23日(火)第2回、第4回に続き3名の国鉄OB等による体験談を聴取。
    主として昭和50年代に入ってから今日の現場実態が報告された。
  • 第7回 2月26日(金)国鉄から昭和56年度重点職場の実態について、職場の一覧、管理上の問題点等を説明。
    委員からは「マル生当時と比較して良くなったというげれど上層幹部のそういう判断は甘いのではないか」「一般会計から予算が出ている以上、世間の批判を受けるととのないような管理レベルに引きあげる必要がある」等の指摘があった。
  • 第8回 3月2日(火)鉄道労働組合からのヒヤリング
    国鉄再建問題について鉄労組合長、書記長他が見解を述べる。
  • 3月3日(水)全国の重点職場の全管理職員3,257名に対し小委員会としてのアンケートをそれぞれの自宅あて発送。また、第8回までの審議状況が「中間報告」としてまとめられ、三塚委員長から自民党の正規の機関である政調審議会に4日、総務会には5日に報告された。
    マスコミ等で次々と明るみにされる職場規律の乱れに関し、4日運輸大臣から国鉄総裁に対し総点検の指示、これを受げ5日、国鉄は総裁名で「職場規律の総点検および是正についてJの通達を発出。
  • 第9回 3月5日(金)前回まで宿題となっていた勤務、昇職、昇給等について国鉄が説明。
    委員からは、「現場は本気になるのか」「本当にウミは出るのか」「今回が国鉄を救う二度とないチャンスだ、」と言った厳しい意見が出された。
  • 第10回 3月9日(火)前回に続き宿題となっていた回復昇給、管理者の意識調査、議員兼職、再雇用、処分等について国鉄から説明。
    委員から国鉄側の説明は信用はおけないとして、明快な説明を委員長から特に要請された。議員兼職問題 *2でも「不承認」との意見が大勢を占めることに。
    参考:国鉄労働組合史詳細解説 78 - 日本国有鉄道 労働運動史
  • 第11回 3月12日(金)国鉄監査委員会の意見聴取が行われ、安居喜造監査委員長他5監査委員が出席、それぞれ所見を述べ、小委員会側の各委員からそれに対する意見、要望等が表明された。
  • 第12回 3月16日(火)冒頭、前日発生した名古屋駅構内列車衝突事故の説明が行なわれ、次いで委員から要求のあった56年度昇給、営業関係昇職経路、労働処分関係訴訟、専従職員、運転検査旅費問題等について説明が行われた。
    名古屋駅事故は総点検中の不祥事だけに委員の聞から厳しい指摘が相次いぐことに。
  • 3月18日(木)第1回の現場視察が抜打ち的に行なわれ。三塚委員長他4名の国会議員、自民党関係者、井上東京西局長ら国鉄関係者一行14名が8時30分、甲府駅を訪問、直ちに現場の詰所をつぶさに巡った後、駅長以下管理者と懇談。職場規律の乱れに各委員も駕きの表情をかくせず。大月保線区にも移動し、区長以下管理者と懇談。
    第一回目に、甲府駅を選択したのは、社会主義協会系が強い職場であると言う理由からでした。
  • 第13回3月19日(金)国会議員の中でとりわげ国鉄問題に造詣の深い細田吉蔵 *3国鉄基本問題調査会顧問から公社制度にまつわる諸問題をの提言を受ける、細田顧問からは政治の責任をとくに強調されることになった。
  • 第14回3月24日(水〕国鉄から総点検の経過報告、名古屋駅構内列車衝突事故、浜川崎・高島両駅の運転事故、深川保線区の改善状況等を説明。
    委員から、名古屋駅事故の厳重な処分を速やかにすべきであるとの指摘がなされた。
  • 3月25日(木)第2回の現場視察。今回は予告の上、東京3局の5現場を13名の委員が3班に分かれて視察
  • 第15回 3月26日(金)前日の現場視察結果が各班長から報告され、国鉄からは総点検の途中経過報告、各組合の春闘方針、職員教育等について説明がなされた。
  • 第16回 3月30日(火)国鉄労動組合、国鉄動力車労働組合から個別に意見を聴取。
  • 第17回 4月2日(金)全国の管理職員に発送しておいたアンケート結果が紹介され、職場実態の深刻さと管理職員の苦労が明らかに。国鉄からは、関連事業全般および八王子地区の不正乗車問題*4を説明。
  • 第18回 4月6日(火)国鉄から合理化の計画と実績、団体交渉の仕組み、乗車証等について説明。三塚委員長から、「はじめて合理化を先に決定し、しかも手当は前年度より下まわる率で妥結したことは、画期的なことであり管理経営権が明確に示された」との発言があった他「乗車証についても大胆な見直しを行うべしと」指摘があった。
  • 第19回 4月9日(金)主な指摘事項12項目について国鉄の考え方を改めて表明
    その項目は以下の通り
    1. 202億損害賠償訴訟・・・スト権ストの次の損害賠償を国労動労に対して起こした訴訟
    2. 現場協議制・・・・・・・現場の問題は現場でと言う方針から設置された現場協議制が、現場管理者のつるし上げの場になっている事への問題是正
    3. 信賞必罰・・・・・・・・処分の段落としなどの是正
    4. 労働処分
    5. 紛対覚書
    6. 年休管理、突発休等
    7. 昇給管理
    8. ヤミ協定等・・・・・・・現場協議の中で出てきた、ヤミ協定など
    9. 管理職問題・・・・・・・下位職代行等、管理職が本来の業務を行えていない問題
    10. 施設管理権および組休・・組合管理になっている点への是正
    11. 兼職議員問題・・・・・・市町村議員の兼職問題(既得権となっていた事への是正(給料とは別に、歳入を受けとる事への問題)
    12. 乗車証問題・・・・・・・赤字にかかわらず、全国一律の職員無料パスや、家族割引などの問題
    今回をもって第1部の検討会は一応の区切りとなる。
  • 第20回 4月13日(火)委員長から審議に基づく私案が提示され、自由討議の後。若干の字句修正の上で承認され。「管理経営権及び職場規律確立に関する報告」との標題を冠し、16日交通部会・国鉄基本問題調査会合同会議および政調審議会の承認を経て同日総務会において自由民主党の党議として決定され、翌17日、田中竜男総務会長から運輸大臣(鹿野政務次官が代理)と国鉄総裁に手渡された。

あくまでも国鉄の自主再建を期待した自民党

ここまでの経緯を見ていますと、自民党のこの小委員会での位置づけとしては、民営化ありきの臨調に最初から乗っかると言うよりも、荒廃した職場規律の確立とそれによる管理運営体制の確立を最優先に考えていたと言えます。

また、既得権(兼職議員問題・乗車証問題)等や、悪慣行(ヤミ協定等)に踏み込んだ検討がなされたことは、従前の再建計画と異なるところでした。

なお、甲府駅の詳細などは、他の資料からも参照できると思われますので、今後機会があれば追記するなどしていければと考えております。

 

次回は、職場規律の確立などに踏み込んだ、小委員会の第2部をアップしたいと思います。

 

 

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*1:国鉄改革の実質的な実働部隊として、活躍した松田昌二、井手正敬葛西敬之、敬称略

*2:国鉄職員が市町村議会議員を兼職する事を許可したもの

*3:(元鉄道省職員、その後運輸省に残り昭和35年退官、衆議院出馬)

*4:国労職員によるヤミ無料パス 3/26発覚